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Q&A 金融機関取引の基本

融資編

Q5

 銀行からシンジケートローンによる資金調達を勧誘されていますが、どのような点に注意すべきでしょうか。

A5

 シンジケートローンとは、複数の金融機関による協調融資のことを指します。
 同一のプロジェクトに対し、複数の金融機関がそれぞれ債務者企業との間で個別に融資条件を交渉して融資契約を締結し、融資実行する、というような形も一種の協調融資といえますが、ここでいうシンジケートローンはこれとは別物です。
 ここでいうシンジケートローンとは、複数の金融機関が、同一の時期に、同一の融資条件の下、同一の融資契約書に基づき、同時期に融資実行する、というものです。
 金融機関団を代表して債務者企業との間の融資条件の交渉や融資契約書ドラフトの作成を行ったり、参加する金融機関を招聘したりする金融機関を、主幹事(アレンジャー)といいます。
 融資契約後の資金の実行や融資期間中のエージェント口座での元利金の入金や分配等の管理、債務者企業からの各種報告等の参加金融機関に対する情報提供、関係者に対する各種通知などの様々な事務を行う金融機関を、エージェントといいます。
 通常、このアレンジャーとエージェントは、既存のメインバンクが兼務して担うことが多いと考えられます。
 主幹事からの招聘を受けて参加する金融機関を、参加金融機関(パーティシパント)といいます。
 このような仕組みのシンジケートローンは、相応の規模のプロジェクトにおいて、その資金需要を充たすために複数の参加金融機関からの融資を募る必要がある場合に組成されます。
 また、主幹事はそれまで債務者企業と取引がなかった金融機関にも幅広く声をかけるので、そうした新たな金融機関からも与信先として一定の評価をされるような企業であることが必要となります。
 このように、シンジケートローンはどんな企業でも組成できるわけではなく、一定の事業規模を有し、幅広い金融機関から一定の評価を受け得るような企業であってはじめて主幹事から勧誘されるものといえるので、勧誘された企業は自信を持ってよいということになります。
 シンジケートローンというと、商社などの海外の大型プロジェクトにおいて数千億円規模で組成されるものというイメージもありますが、日本国内でもメガバンクなどが力を入れて取り組み、ここ10年ほどで急速に普及してきて、上場大企業のみならず、中堅企業や事業再生においても幅広く活用されるに至っています。
 しかし、シンジケートローンを受ける企業においては、注意すべき点もあります。
 まず、多くの金融機関を招聘するというシンジケートローンの性質上、どうしても融資契約の条項が通常の融資契約に比べて債務者企業にとって厳しめになります。
 例えば、「貸付実行前提条件」(CP=Conditions Precedent)という条項があります。
 シンジケートローンの場合、通常、契約締結日から融資実行日までの間が数日空いており、この間に各参加金融機関ごとに貸付実行前提条件を充たしているかどうかを判断します。
 貸付実行前提条件を1つでも充足しないと判断した場合は、その金融機関からの貸付は実行されません。
 貸付実行前提条件としては、たとえば、債務者企業において期限の利益の喪失事由がないことが規定されます。
 そして、この期限の利益の喪失事由は、民法上の3事由(民法137条)のみならず、広範に規定されます(Q&A 金融機関取引の基本 融資編Q2も適宜ご参照ください)。
 また、その他にも、シンジケートローン契約書において、債務者企業の「表明及び保証」(Representations and Warranties)が広範に規定され、契約時や貸付時にこれらの表明及び保証に反する事実があれば、貸付実行前提条件を充足せず、貸付が実行されないことになります。
 表明及び保証の内容としては、例えば、計算書類等の正確性や重大な訴訟係属がないことなどがあり、さらには、期限の利益の喪失事由発生のおそれがないことなども含まれる場合があります。
 そして、表明及び保証に反する事実の有無は貸し手である銀行が判断するので、単なる客観的事実の有無ではなく評価的要素も含む場合には、借り手企業が表明及び保証に反する事実はないといくら主張してみても仕方がないということになります(後に裁判で争える余地はありますが)。
 また、融資期間中に債務者企業が遵守すべき義務も多岐にわたります。
 各期(半期や四半期の場合も)の財務状況の報告義務に加え、重要な資産の処分の制限、新規の借入の制限、格付けの維持、財務制限条項の遵守などの条項が設けられることがあります。
 これらの制限を解除してもらうためには、参加金融機関の一定多数(融資残高の過半数や3分の2以上など)による承認が必要とされます。
 財務制限条項とは、各期(半期や四半期の場合も)の自己資本比率やキャッシュフローを一定以上に維持することなど、財務上の制限を定めた条項をいい、財務コベナンツなどといいます。
 こうした債務者企業の義務を総称してコベナンツなどということもあります。
 コベナンツに違反すると、期限の利益喪失事由に該当するという建て付けとなりますので、債務者企業にとっては非常に重要です。
 また、貸付債権は譲渡されることも前提としております。
 債権譲渡は原則として債権者が自由に行えますので(民法466条)、これまでの通常の融資もこの点は同じです。
 ただ、これまでの通常の融資の場合は、不良債権化してファンドやサービサーなどに売却(バルクセールといいます)されるような場合を除いては、正常な取引関係にあるうちは第三者に債権譲渡されることはあまりありませんでした。
 これは、これまでの通常の融資が単なる金の貸し借りにとどまらず、金融機関と債務者企業の間の長期継続的な関係に基づくものであることによっています(このような関係をリレーションシップバンキングなどといいます)。
 しかし、シンジケートローンの場合は、新たな金融機関が地域も問わず多数参加しますので、上記のような従来の関係に基づくものではないため、債権譲渡に対するハードルが事実上低くなっているといえます。
 また、シンジケートローンでは手数料もかかります。
 シンジケートローンの場合、通常の金利に加えて、アレンジャーに支払うアレンジャーフィー、各金融機関に支払うアップフロントフィー、融資期間中にエージェントに支払うエージェントフィーなどがかかります。
 以上がシンジケートローンの主な特徴や債務者企業が注意すべき点ですが、債務者企業がどういう企業であるかやアレンジャーのスタンスなどにより実際は様々です。
 債務者企業としては、融資条件の交渉の際に契約書ドラフトをよく精査して、上記のような点についても十分に理解し、納得したうえで契約締結をすることが重要となってきます。