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Q&A 金融機関取引の基本

融資編

Q4

 当社創業以来、はじめて金融機関からまとまった額の借入をしようとしております。どのような社内手続が必要でしょうか。また、もし手続をしなかった場合はどうなりますでしょうか。

A4

 必要な社内手続は、その会社の機関設計によって異なります。
 機関設計とは、取締役会設置会社であるかどうか、委員会設置会社であるかどうかなどにより区別されます(会社法326~328条)。
 以下では、株式会社の機関設計として標準的に採用されている取締役会設置会社を前提に説明します。
 まず、取締役会はすべての取締役で組織されます(同法362条1項)。
 そして、取締役会の職務は、①取締役会設置会社の業務執行の決定、②取締役の職務の執行の監督、③代表取締役の選定及び解職、とされています(同条2項)。
 したがって、取締役会は原則として業務執行のすべてを決定する権限を有し(同条項1号)、その範囲は極めて多岐にわたります。
 取締役会は、その決議により、業務執行の決定を代表取締役やその他の取締役等に委任することができます。
 しかし、一部の重要な業務執行の決定(同条4項に列挙)については、取締役に委任することができないとされています。
 この中に「多額の借財」が規定されており、文字通り、多額の借入の場合をいいます(同項2号)。
 「多額の借財」に当たるかどうかは、当該借財の額、その会社の総資産・経常利益等に占める割合、借財の目的および会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものである、と考えられています(江頭憲治郎「株式会社法(第2版)」377頁、東京地裁平成9年3月17日判決)。
 したがって、金融機関からの借入の決定に際しては、こうした事情を踏まえて、取締役会決議の要否を判断する必要があります。
 なお、上記の原則の例外として、定款の定めにより株主総会の決議事項とすることは可能です(同法295条2項)。
 また、取締役の数が6人以上かつ1人以上の社外取締役がいる場合には、「多額の借財」については、特別取締役による取締役会の決議に委任することができます(同法373条1項)。
 特別取締役による取締役会の決議は、あらかじめ選定した3人以上の取締役のうち、議決に加わることができるものの過半数が出席し、その過半数を持って行います(同条項)。
 この場合は、特別取締役は、特別取締役による取締役会の決議後、遅滞なく、当該決議の内容をその他の取締役に報告しなければなりません(同条3項)。
 この特別取締役による取締役会決議により、迅速な意思決定が可能となります。
 次に、この必要な手続をしなかった場合についてです。
 判例上、代表取締役が必要な取締役会決議に基づかずに業務執行を行った場合は、原則としてその行為は有効ですが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしとき(悪意又は過失といいます)は無効であるとされています(最高裁昭和40年9月22日判決)。
 したがって、本件の場合、当社が金融機関に対し借入の無効を主張するためには、金融機関の悪意又は過失を主張立証する必要があります。
 この点については、第三者保護の見地から、悪意又は重大な過失の相手方に対してしか無効を主張できないとする見解も有力です(江頭393頁)。
 ただ、もし借入の無効を主張できたとしても、借入により取得した金銭はその原因を失うことにより会社の不当利得となり、金融機関から不当利得返還請求を受けることになりますので、返済義務を免れるわけではありません(民法703、704条)。
 また、この借入金の担保として設定した不動産抵当権がある場合において、この抵当権の無効を主張することは信義則上許されないとされる可能性があります(最高裁昭和44年7月4日判決参照)。