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Q&A 金融機関取引の基本

融資編

Q3

 銀行からコミットメントラインの設定を勧誘されていますが、どのような点に注意すべきでしょうか。

A3

 コミットメントラインとは、特定融資枠契約とも呼ばれ、法律上「一定の期間及び融資の極度額の限度内において、当事者の一方の意思表示により当事者間において当事者の一方を借主として金銭を目的とする消費貸借を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して手数料を支払うことを約する契約」と規定されております(特定融資枠契約に関する法律1条)。
 いわゆる諾成的金銭消費貸借契約の一種で、要は、銀行と借り手企業の間で予め一定の期間及び融資枠(極度額)を設定し、その期間は借り手企業は必要に応じて借入を申し込めば融資枠の限度内でその都度金銭消費貸借契約を成立させ、随時借入をすることができる、但しその融資枠設定のための手数料を支払う、というものです。
 企業としては、当面は融資枠を設定するだけなので、有利子負債を増加してバランスシートを悪化させることなく、必要が生じた場合にだけ融資枠の限度内で必要な借り入れをすることができる、という点でメリットがあるとされています。
 しかし、本当に必要なときに必要なだけスムーズに借り入れをすることができるかについては、慎重に契約内容を吟味する必要があります。
 金融機関の融資・リスケ審査などでも説明しました通り、銀行は金融庁の指導の下、金融検査マニュアルに基づき厳しく貸付債権等の資産の自己査定をしています。
 これは、言うまでもなく、貸付債権等の不良債権化やその増加による銀行財務の悪化を防ぐという目的のためです。
 このような銀行の基本的姿勢はコミットメントライン契約の場合でも変わるものではなく、コミットメントライン契約に基づいて貸付を実行しなければならない義務も、それによりその貸付債権が不良債権化することまで許しているものではありません。
 そのため、コミットメントライン契約書においては、数々の「貸付実行前提条件」(CP=Conditions Precedent)が規定されており、貸付実行前提条件を1つでも充足しない場合は、銀行は貸付義務を免れ、貸付は実行されません。
 貸付実行前提条件としては、たとえば、借り手企業において期限の利益の喪失事由がないことが規定されます。
 そして、この期限の利益の喪失事由は、民法上の3事由(民法137条)のみならず、広範に規定されます(Q&A 金融機関取引の基本 融資編Q2も適宜ご参照ください)。
 また、その他にも、コミットメントライン契約書において、借り手企業の「表明及び保証」(Representations and Warranties)が広範に規定され、契約時や貸付時にこれらの表明及び保証に反する事実があれば、貸付実行前提条件を充足せず、貸付が実行されないことになります。
 表明及び保証の内容としては、例えば、計算書類等の正確性や重大な訴訟係属がないことなどがあり、さらには、期限の利益の喪失事由発生のおそれがないことなども含まれる場合があります。
 そして、表明及び保証に反する事実の有無は貸し手である銀行が判断するので、単なる客観的事実の有無ではなく評価的要素も含む場合には、借り手企業が表明及び保証に反する事実はないといくら主張してみても仕方がないということになります(後に裁判で争える余地はありますが)。
 また、手数料の問題もあります。
 手数料(コミットメントフィーやファシリティーフィーなどと呼ばれます)は、借入金に対する利息と異なり、一定の期間の融資枠設定の対価としてのものではありますが、利息制限法や出資法上、みなし利息とされ得ます。
 みなし利息とは、「金銭を目的とする消費貸借に関し債権者の受ける元本以外の金銭は、礼金、割引金、手数料、調査料その他いかなる名義をもってするかを問わず、利息とみなす。ただし、契約の締結及び債務の弁済の費用は、この限りでない。」(利息制限法3条)とされています。
 このみなし利息も含む利息は、元本額が10万円未満の場合は年20%、元本額が10万円以上100万円未満の場合は年18%、元本額が100万円以上の場合は年15%が上限とされ、これを超過する場合は利息制限法違反となり、その超過部分は無効となります(同法1条)。
 例えば、期間1年間で融資枠10億円のコミットメントラインを手数料2%で設定した場合に、結局1年間で平均1億円しか枠を使わなかったときは、手数料は1800万円(未使用枠9億円×2%)となり、1億円の借入利息とみなし利息としての当該手数料を合わせた利息は利息制限法を超過することになります。
 この問題を解決するために、平成11年、利息制限法及び出資法の特例として上記特定融資枠契約に関する法律が制定され、一定の借主の場合のコミットメントラインの手数料については、利息制限法及び出資法の適用除外となることが規定されました(特定融資枠契約に関する契約3条)。
 一定の借主とは、会社法上の大会社(会社法2条6号。資本金5億円以上又は負債200億円以上)、資本金3億円超の会社、純資産額10億円超の会社などです(同法2条)。
 これらの一定の借主以外の会社(いわゆる中小企業)でもコミットメントラインを設定することはできますが、上記の利息制限法や出資法との関係から、銀行は慎重になると考えられます。
 以上の通り、コミットメントラインは、借り手企業がいざ資金が必要であるというときに必ずしもスムーズに貸付が実行されず、終わってみれば高額の手数料を払っただけ(雨が降ってきたのに傘を貸してもらえない)、となってしまうおそれのある契約であるといえます。
 それでも、上記のようなメリットから利用している企業も少なくないです。
 借り手企業としては、契約締結に際しては、契約内容をよく精査して、特に契約書の貸付実行前提条件や表明及び保証の条項をよく吟味・検討して、上記のようなリスクについても十分に納得したうえで締結することが重要です。