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Q&A 金融機関取引の基本

融資編

Q1

 金融機関からの借入金を約定期日に返済できないとどうなるのでしょうか。

A1

 まず、法律上の原則から説明します。
 金融機関から債務者企業に対する貸付金債権は、「消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」といいます。
 「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」(民法587条)とされているとおり、同請求権が成立するためには、①両当事者間の返還合意と②金融機関からの貸付金銭の交付が必要となり、これに加えて、③約定期日の合意、④約定期日の到来も必要とされています。
 したがって、約定期日が到来したのに約定通りに返済できないと、貸金返還請求権が発生し、債務者企業は返還義務を負うことになります。
 返還義務を負うということは、裁判になれば返還を命じる判決が出され、これに従わなければ財産を強制的に換価してその代価から返済をさせられるということを意味します。
 もっとも、期限一括弁済ではなく長期約定弁済の場合に、そのうちの1回の約定返済が滞っただけでは、その滞った金額についてのみ返還義務が生じ、その後の約定期日未到来の部分については当面返還義務を免れます。
 また、約定期日に約定通りに返済できない場合(すなわち延滞の場合)は、延滞した額が債務不履行(履行遅滞)となり、その額について遅延損害金が発生します(民法412条1項、415条)。
 遅延損害金は、約定期日の翌日から発生し(民法412条1項、140条)、その率は法定利率となります(民法419条1項)。
 法定利率は、債務者企業が会社であれば年6%となります(商法514条、503条、会社法5条)。
 これが法律上の原則です。
 しかし、金融機関からの融資においては、通常この原則は当事者間の合意により修正されており、この原則通りに処理されることは実際はほとんどないと言ってよいです。
 当事者間の合意とは、融資の際に締結される銀行取引約定書(銀取約定)や金銭消費貸借契約証書の各条項をいいます。
 まず、延滞の場合の返還義務についての修正についてです。
 銀取約定等では、「第●条(期限の利益の喪失) 債務者について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、債権者からの請求によって、債務者は債権者に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済する。 ●号 債務者が債権者に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。」などという条項があると思います。
 これにより、長期約定弁済のうち1回でも約定返済を延滞したときは、金融機関からの請求(「期限の利益喪失通知書」などという書面が内容証明等で交付されます。)により、債務者企業は期限の利益(民法136条)、すなわち、延滞期日以降の約定返済を各約定期日到来まで待ってもらえる利益、を失うことになります。
 これにより、延滞期日以降のすべての約定返済期日が前倒しされ、残借入金全額を即時に返還すべき義務を負うとともに、その結果これら全額について債務不履行(履行遅滞)となり、遅延損害金が発生することになります。
 遅延損害金の率についても銀取約定等により修正がなされています。
 銀取約定等では、「第●条(利息、損害金等) 債務者は、債権者に対する債務を履行しなかった場合には、その支払うべき金額に対し年14%の割合の損害金を支払います。」などという条項があると思います。
 これにより、遅延損害金の利率は、法定利率の年6%から約定利率の年14%に修正されることになります(民法419条1項但書)。
 以上から、結論としては、約定返済の延滞後、金融機関からの期限の利益喪失通知を受けた日から残借入金全額の即時返還義務と年14%の遅延損害金の支払義務を負うことになります。
 一時的な資金繰りの狂いで約定返済を1回延滞したが、中長期的には約定返済が可能であると判断されれば、金融機関は直ちには期限の利益の喪失をしませんので、債務者企業としては、今後の返済見通しを示して理解を得ることが重要となり、場合によっては返済の緩和などのリスケジューリングを要請することになります。
 今後の約定返済の見通しが立たず、返済緩和のリスケジューリングも困難と判断された場合は、期限の利益の喪失をされることになりますが、1回の約定返済を延滞した債務者企業が残借入金全額を即時に返還することはまずできないので、当面は全額につき延滞状態に陥ることになります。
 その後金融機関が、債務者企業からのリスケジューリング要請に応じて正常取引に復するか、回収モードに入って担保・保証から強制的に回収を図るか、債権をファンドやサービサーなどの第三者に売却するかなどの判断をすることになります。
 こうなると、債務者企業の事業継続は金融機関の判断一つに委ねられることになり、非常に不安定な状態になります。
 それほど、約定返済の延滞ということは債務者企業にとっても、金融機関にとっても、重いものであるといえます。