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Q&A 金融機関取引の基本

事業再生・倒産編

Q7

 厚生年金基金の解散に伴う積立不足の穴埋めのため母体企業である当社においても巨額の損失を計上することとなり、財務内容が大幅に悪化します。納付金の資金手当も課題です。金融機関との取引にどのような影響がありますでしょうか。

A7

 まず前提として、厚生年金基金の解散の要件について説明します。
 法律上、基金の解散の要件は、
 1 代議員の定数の四分の三以上の多数による代議員会の議決
 2 基金の事業の継続の不能
 3 厚生労働大臣による解散の命令
 のいずれかとされています(厚生年金保険法145条1項)。
 そして、上記1又は2の事由により解散する場合は、厚生労働大臣の認可が必要とされています(同条2項)。
 次に、上記1の事由により解散する場合は、厚生労働省年金局長通知により、以下の解散理由と解散手続も必要とされています。
 (解散理由)
 代議員会で議決された当該基金の解散理由が、次の①~④のいずれかに該当しているものであること。
 ①設立事業所の経営状況が、債務超過の状態が続く見込みであるなど著しく悪化していること。
 ②加入員数の減少、年齢構成の高齢化等により、今後、掛金が著しく上昇する見込みであり、かつ、当該掛金を負担していくことが困難であると見込まれること。
 ③加入員数が、厚生年金基金設立認可基準に比して著しく減少し、基金の運営を続けていくことが困難であると見込まれること。
 ④①~③のいずれにも該当しない場合であって、基金設立後の事情変更等により基金の運営を続けていくことが困難であると見込まれること。
 (解散手続)
 代議員会における議決の前に次の①~④のすべての手続を終了していること。
 ①事業主の同意
 代議員会における議決前一月以内現在における全設立事業所の事業主の四分の三以上の同意を得ていること。
 ②加入員の同意
 代議員会における議決前一月以内現在における加入員総数の四分の三以上の同意を得ていること。
 ③受給者への説明
 代議員会における議決前に、全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文書又は口頭で行っていること。
 ④労働組合の同意
 設立事業所に使用される加入員の三分の一以上で組織する労働組合がある場合は、当該労働組合の同意を得ていること。

 そのうえで、解散時のいわゆる積立不足については、「基金が解散する場合において、当該解散する日における年金給付等積立金の額が、政令で定める額を下回るときは、当該基金は、当該下回る額を、設立事業所の事業主から掛金として一括して徴収するものとする。」(同法138条6項)、企業年金「連合会は、基金が解散したときは、解散基金加入員に係る第八十五条の二に規定する責任準備金に相当する額を当該解散した基金から徴収する。」(同法161条1項)と規定されています。
 すなわち、解散時の積立不足については最終的には基金の母体企業が納付義務を負担することとなります。
 次に、これによる母体企業への財務面・資金面の影響について説明します。
 以下では、退職給付会計を採用していない企業を前提とし、厚生労働省がHPで公表している会計処理の方法(厚生労働省「厚生年金基金の積立不足及び解散に伴う母体企業の会計上・税務上の取扱い」)に基づきます。
 基金において解散について代議員会の議決がなされ、母体企業における納付金(ここでは1億円とします)の負担額が確定したら、母体企業において、
 (借方)特別損失 1億円 / (貸方)厚生年金基金解散損失引当金 1億円
 という経理処理により特損1億円を計上します。
 その後、解散について厚生労働大臣の認可がされたら、母体企業において、
 (借方)厚生年金基金解散特別損失引当金 1億円 / (貸方)未払金 1億円
 という経理処理により1億円の未払金を負債計上するとともに、納付のための資金調達が問題となってきます。
 なお、ここで母体企業の納付義務が確定するため、当該額を損金算入することができます。
 厚生労働大臣により納付金の分割納付の承認を受けた場合は(ここでは5年分割納付とします)、1回目の納付時に
 (借方)未払金 20百万円 / (貸方)現預金 20百万円
 という経理処理を行い、これを全部で5回繰り返します。
 ここでも、各回の納付金20百万円の資金調達が問題になります。
 自力で資金手当できる体力があればよいですが、そうでない企業にとっては、金融機関からの融資等外部資金に頼らなければならなくなります。
 金融機関は上記の処理を踏まえた企業の財務状況や資金繰り等を審査して融資の可否を判断することになりますが、上記の特損計上により大幅赤字となり債務超過に転落するような場合には厳しい判断も想定されます。
 金融機関における審査のポイントについては、金融機関の融資・リスケ審査にて詳しく説明しておりますので、適宜ご参照ください。
 なお、金融庁は、本件のような場合の企業についての金融検査マニュアル上の債務者区分の判断基準についてHPで公表しています(金融庁検査局「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」)。
 それによれば、本件のような場合の母体企業が「赤字や債務超過となる場合であっても、こうした一時的な損失のみをもって債務者区分を判断することは適当ではなく、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、その返済能力に大きな変化がないと考えられる債務者については、債務者区分を維持することと判断して差し支えありません。」としています。
 さらに、上記納付により母体企業の返済能力に問題が生じると認められる場合においても、「当該企業の経営改善の見込み等を勘案しつつ、金融機関において、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」の策定を支援し、その結果、同計画が策定されている債務者については、債務者区分を「要注意先」と判断して差し支えありません。」としています。
 これだけを読んでもどういうことなのかわかりにくいですが、要は、金融機関が当該企業向け債権をいわゆる不良債権としなくてよい判断基準が明確化され、当該企業との取引が維持され、融資等も行われやすくなる方向に働くといえます。
 金融検査マニュアルや債務者区分については、金融検査マニュアル・自己査定、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」などについては中小企業金融円滑化法にて詳しく説明しておりますので、適宜ご参照ください。
 厚生年金基金の解散に伴う損失計上や資金負担は突如として発生し、経営上大きな影響を及ぼすものですが、上記のような制度や取り扱いについても把握・理解したうえで、冷静に対応して乗り切ることが重要となります。