元銀行員の弁護士による企業金融 事業再生 コンサルティング

トップページ > Q&A事業再生・倒産編 > Q6

Q&A 金融機関取引の基本

事業再生・倒産編

Q6

 個人版私的整理ガイドラインによる事業再生を検討しておりますが、どのようなものでしょうか。

A6

 個人版私的整理ガイドラインとは、平成23年3月11日の東日本大震災によるいわゆる二重ローン問題を抱えることになった被災地の個人の方々の債務の整理の促進のため、同年7月、「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」として、官民をあげて策定されたものです。
 Q5の私的整理ガイドラインと同様、法的拘束力はないものの、個人の私的整理の準則として債権者その他利害関係人によって尊重・遵守されることが期待されるものです。
 対象となり得る債務者の要件は、(1)住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが東日本大震災の影響を受けたことによって、住宅ローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること、(2)弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること、(3)東日本大震災が発生する以前に、対象債権者に対して負っている債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない、(4)このガイドラインによる債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること、(5)債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること、(6)反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと、(7)破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由がないこと、のすべての要件を備える個人とされています(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第3項)。
 手続の流れは概略、(1)上記要件を備える債務者が全債権者に対しガイドラインによる債務整理を書面により申し出て、必要書類を提出、(2)(1)の申出の時点から一時停止期間が開始(対象債権者のいずれかから書面による異議が述べられることを解除条件とする)、(3)対象債権者による異議、(4)債務者が(1)の申出から3ヶ月以内(個人事業者の場合は4か月以内)に弁済計画案を策定の上、全対象債権者に提出(必要あるときの3ヶ月を超えない期限延長あり)、(5)個人版私的整理ガイドライン運営委員会が報告書を作成し、債務者が弁済計画案と同報告書を全対象債権者に提出、(6)債務者が全対象債権者に対し弁済計画案及び報告書の説明、質疑応答等、(7)対象債権者が(6)の説明等の日から1か月以内に弁済計画案に対する同意不同意を表明、(8)全対象債権者が弁済計画案について同意し、その旨を書面で確認した時点で弁済計画が成立し、弁済計画の定めに従って権利変更・処理(全対象債権者の同意が得られない場合は私的整理は不成立により終了)、というものです(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第5~10項)。
 以下では、事業収益による弁済による事業再生を図る個人事業者の場合(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第7項(2)②)を前提に説明します。
 一時停止は、個人版私的整理ガイドラインの最も有効な機能の一つで、一時停止通知のみをもって銀行取引約定書における期限の利益喪失事由として扱わないことを明記したほか、一時停止期間中(一時停止の開始日から6か月を経過した日又は弁済計画が成立した日若しくは不成立により本ガイドラインによる債務整理が終了した日のいずれか早い日まで)の債権者による債権回収や保全強化、債務者による弁済や資産処分等の権利変更を禁止し、申出前後の混乱による事業価値の毀損を防ぐものです(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第6項)。
 また、一時停止期間中の追加融資は優先弁済とされる扱いとなっており(会社更生法や民事再生法における共益債権的位置づけ)、同期間中の資金不足による再建頓挫を防ぐものとなっています(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第6項(3))。
 事業収益による弁済による事業再生を図る個人事業者の弁済計画の内容としては、5年以内の債務弁済計画とすること、事業見通し(売上・原価・経費)・収支計画を記載すること、大震災前でも赤字であったときは赤字の原因と解消方策と概ね5年以内目途の黒字転換を内容とすること、清算価値の保障などが原則とされています(個人債務者の私的整理ガイドライン第7項(2))。
 その他、個人版私的整理ガイドラインにおける特徴として、一定の場合を除き保証人に対する保証履行を求めないことや信用情報登録機関に報告・登録しないことが明記されています(個人債務者の私的整理に関するガイドライン第7項(5)、第10項(2))。
 また、個人版私的整理ガイドライン自体に規定があるわけではないですが、個人版私的整理ガイドラインに基づく債権放棄については、原則として、債権者において税務上損金算入、債務者において債務免除益の不算入との取り扱いとされています(国税庁回答)(ただし、税務上の取扱いは変更がありえますので、注意が必要です)。
 以上のとおり、個人版私的整理ガイドラインは、対象債務者の要件、手続、弁済計画の内容等についてQ5の私的整理ガイドラインよりも緩和され、保証履行請求や信用情報登録機関への報告・登録の面でも配慮もなされるなど、使い勝手も良くなっていると思います。
 今後のさらなる活用が期待されます。