元銀行員の弁護士による企業金融 事業再生 コンサルティング

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Q&A 金融機関取引の基本

事業再生・倒産編

Q5

 私的整理ガイドラインによる事業再生を検討しておりますが、どのようなものでしょうか。

A5

 私的整理ガイドラインとは、平成13年9月に策定された企業の私的整理のための原則(紳士協定的なもので法的強制力はありません)たるもので、米国における私的整理の準則である「INSOL8原則」を参考に、それまで日本にはなかった私的整理の基本的ルールを初めて定めたものです。
 銀行の巨額不良債権問題が金融・経済面の最重要課題となる中で、銀行に不良債権処理を促すとともに、企業倒産の増加による混乱を回避すべく、官民をあげて策定されました。
 ちなみに、私個人としても、当時できたばかりの民事再生法申立企業を対象とする政策金融機関の事業再生支援融資制度(いわゆる「DIPファイナンス」)の対象企業に私的整理ガイドライン適用企業も新たに追加する制度拡充を予算要求官庁の担当官の立場で関わった縁があります。
 私的整理ガイドラインは、その要件や手続きの厳格さ等から活用実績自体はさほど伸びておりませんが、基本的な考え方は現在の様々な私的整理スキームに引き継がれておりますので、おおもとのあるべき基本的原則として理解しておく意義はあると思います。
 まず、対象となる企業の要件は、(1)過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再建が困難であること、(2)事業価値があり(技術・ブランド・商圏・人材などの事業基盤があり、その事業に収益性や将来性があること)、重要な事業部門で営業利益を計上しているなど債権者の支援により債権の可能性があること、(3)会社更生法や民事再生法などの法的整理を申し立てることにより当該債務者の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損されるなど、事業再建に支障が生ずるおそれがあること、(4)私的整理により再建するときは、破産的清算はもとより、会社更生法や民事再生法などの手続によるよりも多い回収を得られる見込みが確実であるなど、債権者にとっても経済的な合理性が期待できること、のすべてを備える企業とされています(私的整理に関するガイドライン第3項)。
 そして、手続の流れは概略、(1)上記企業が主要債権者に対し、私的整理ガイドラインによる私的整理を申し出て必要な資料を提出する、(2)主要債権者が(1)の資料を精査して、上記申出企業の要件を充たすか、再建計画案につき対象債権者の同意を得られる見込みがあるかどうか、再建計画案の実行可能性があるかどうか、を検討のうえ、一時停止の通知を発するかどうかを判断し、相当と判断したときは債務者と連名で対象債権者(再建計画が成立したときにそれにより債権カット等の権利変更をされる債権者)全員に対し一時停止通知を発する、(3)債務者と主要債権者は一時停止通知を発した日から2週間以内の日を開催日とする第1回債権者会議を招集する、(4)再建計画案の策定と専門家アドバイザーによる調査検証、(5)第2回債権者会議において再建計画案の報告及び質疑応答等、(6)対象債権者による再建計画案に対する同意不同意の表明、(7)対象債権者全員が同意した場合に再建計画が成立し、再建計画の定めに従って権利変更・処理(全対象債権者の同意が得られない場合は私的整理は終了し法的整理に移行)、というものです(私的整理に関するガイドライン第4~8項)。
 一時停止は、私的整理ガイドラインの最も有効な機能の一つで、一時停止通知のみをもって銀行取引約定書における期限の利益喪失事由として扱わないことを明記したほか、一時停止期間中(一時停止通知を発した日以降、第1回債権者会議開催日から3ヶ月を超えない日まで)の債権者による債権回収や保全強化、債務者による弁済や資産処分等の権利変更を禁止し、申出前後の混乱による事業価値の毀損を防ぐというものです(私的整理に関するガイドライン第6項)。
 また、一時停止期間中の追加融資は優先弁済とされる扱いとなっており(会社更生法や民事再生法における共益債権的位置づけ)、同期間中の資金不足による再建頓挫を防ぐものとなっています(私的整理に関するガイドライン第6項(3))。
 再建計画の内容としては、3年以内の実質債務超過解消、3年以内の経常黒字化、100%減資等による株主責任、経営者の退任、清算価値の保障、などが要件とされています(私的整理に関するガイドライン第7項)。
 また、私的整理ガイドライン自体に規定があるわけではないですが、私的整理ガイドラインに基づく債権放棄については、原則として、債権者において税務上損金算入が、債務者において資産評価損益の計上や期限切れ欠損金の優先利用が認められ、無税償却や債務免除益への税務上の対応が可能となりました(私的整理に関するガイドラインQ&AのQ10)(ただし、税務上の取扱いは変更がありえますので、注意が必要です)。
 以上が、私的整理ガイドラインの概要です。
 その要件や手続きの厳格さから、特に中小企業においてはそのまま活用するのは難しい面がありますが、私的整理のおおもとの基本的な考え方として理解しておいてよいと思われます。