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Q&A 金融機関取引の基本

事業再生・倒産編

Q2

 Q1の会社分割において注意すべきことは何でしょうか。

A2

 まず、Q1の手続をすべて適法に履践する必要があります。
 手続に瑕疵があると、新設分割無効の訴えにより分割の効力が(将来に向けて)否定される場合があります(会社法828条1項10号、838条、839条)。
 次に、手続を一応すべて履践した場合でも、詐害的(濫用的)会社分割としてその効力が否定される場合があります。
 詐害的会社分割とは、新設分割設立会社に債務の履行を請求することができる債権者と当該請求をすることができない債権者(残存債権者)とを恣意的に選別した上で、新設分割設立会社に優良事業や資産を承継させるなどの残存債権者を害する会社分割のことをいいます(法務省民事局参事官室「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」54頁)。
 なぜこのような詐害的会社分割が可能であるかというと、Q1でも説明したとおり、新設分割において残存債権者は原則として債権者異議手続の対象となっておらず、公告や催告が不要なため、残存債権者に知られずに新設分割を実行できるためです。
 そして、なぜこのような仕組みになっているかというと、新設分割会社は、新設分割設立会社に承継した権利義務(純資産額)に見合う対価として新設分割設立会社の株式を取得するので、残存債権者に損害等の影響がないという考え方のためです。
 しかし、こうした仕組みを濫用して上記のような詐害的会社分割が横行したことから、法制審議会において会社法改正が議論されるとともに、詐害的会社分割の効力をめぐって裁判でも争われるようになりました。
 そして、平成24年10月12日、最高裁判所がこの問題について初判断を示しました(最高裁平成24年10月12日判決)。
 この裁判の事案は、新設分割において、新設分割会社の残存債権者が、新設分割設立会社に対し、詐害行為取消権(民法424条)に基づき新設分割の取消し及び承継不動産の所有権移転登記の抹消登記を求めたものです。
 詐害行為取消権は、「債権者(筆者注:ここでは残存債権者)は、債務者(筆者注:ここでは新設分割会社)が債権者を害することを知ってした法律行為(筆者注:ここでは新設分割)の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(筆者注:ここでは新設分割設立会社)又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りではない。」(民法424条1項)、「前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。」(同条2項)と規定されております。
 最高裁判所は、判決において、「会社法上、新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(同法810条)、一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず、新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については、詐害行為取消権によってその保護を図る必要がある場合が存するところである。」としたうえで、「株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。」と判示しました(最高裁判所HP)。
 この判決は、残存債権者の「保護を図る必要がある場合が存する」と述べるのみで、具体的にどのような場合がこれに当たるのかを述べておりませんので、残存債権者が会社法上債権者異議(保護)手続の対象とされていないことの理由(新設分割会社が承継資産に見合う対価としての新設分割設立会社株式を取得するため、残存債権者において損害がない)との関係をどのように整理したのかは直ちに分かりません。
 個人的には、例えば、新設分割会社が分割前、資産1億円、負債10億円という場合に、そのままであれば全債権者は平等に10%の配当を取得することになりますが、これを、資産1億円に負債1億円をつけて新設分割し、新設分割会社が新設分割設立会社の株式(株式価値0円)を取得するとなると、新設分割設立会社に承継された負債1億円の債権者は100%回収できるのに、新設分割会社の残存債権者は全額回収不能になる、という点で債権者平等が損なわれ、残存債権者に損害が生じる(事実上、1億円と9億円で優先劣後構造を作り出す)、というような場合を言うのではないかと思いますが、ここまで極端ではないとしても、事業再生における新設分割においてはこういう要素を有することも少なくないと思いますので、その線引きをどこでするのかが問題になりそうです。
 そもそも、会社法が前提としていると考えられる、承継資産の価値と対価としての株式の価値が見合っているから残存債権者に損害は生じないという考え方は、資産のみを承継する場合は当てはまりますが、負債もつけて承継する場合には当てはまらないので、このような場合まで債権者異議(保護)手続の対象外としてしまうのは行き過ぎだったのかもしれません。
 注目の最高裁判所の初判断ですので、今後研究者などによる判例評釈が出され、具体的にどういう場合が詐害行為取消の対象となるのかも見えてくるかと思います。
 いずれにしても、当事者としては、会社分割が詐害行為取消権により取消しの対象となる場合があるということは注意しておく必要があります。
 なお、法制審において示されている会社法改正試案では、「吸収分割会社又は新設分割会社が、吸収分割承継会社又は新設分割設立会社(以下「承継会社等」という。)に承継されない債務の債権者(以下「残存債権者」という。)を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は、承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができるものとする。ただし、吸収分割の場合であって、吸収分割承継会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。」(法務省民事局参事官室「会社法制の見直しに関する中間試案」20頁)として、残存債権者の保護を図っております。
 この会社法改正についても今後注意が必要です。