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Q&A 金融機関取引の基本

保証編

Q2

 金融機関から、連帯保証人としての支払いを求められています。確かに金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に私の実印が押されているのですが、全く心当たりがありません。それでもやはり支払わなければならないでしょうか。

A2

 法律上、「保証人は、主たる債務者がその債務を履行をしないときに、その履行をする責任を負う。」(民法446条1項)とされております。
 債権者の保証人に対する請求権は保証契約に基づく保証債務履行請求権と呼ばれており、金融機関はこの請求権に基づいて支払いを求めてきております。
 保証契約は契約ですから、その成立のためには、金融機関と保証人の間の保証の合意(保証の申込と承諾)が必要ですが(同法521~528条)、これに加えて、平成17年4月1日以降は書面による合意であることが必要となっています(同法446条2項)。
 以上から、保証契約に基づく保証債務履行請求のためには、①主債務の存在、②保証の合意、③書面、が必要となります。
 本件の場合、保証人としては、自分が全く知らないうちに契約書に押印されていたというのですから、②保証の合意がないことを主張することになります。
 そして、保証の合意の存在が証明されなければ、保証契約は成立していないことになり、保証債務の履行を免れることができます。
 しかし、金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に実印が押されているのに、自分は全く知らない、保証の合意は存在しない、などということが通るのでしょうか。
 以下では、裁判となった場合を前提に説明します。
 やはり、契約書に印鑑が押してあるということは大変重いことで、法律上も特別の効果が認められています。
 すなわち、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」(民事訴訟法228条4項)と規定されています。
 ここでいう「本人・・・の・・・押印」とは、本人の意思に基づく押印であることを言いますので、もし押印が本人の意思によらなければ、この推定が働くわけではありません。
 しかし、最高裁判例は、「文書中の印影が本人または代理人の印章によって顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、当該文書は、民訴326条(現228条4項)にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキ」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである。」としました(最高裁昭和39年5月12日判決)。
 この判例により、文書中に本人の印章による印影がある→押印は本人の意思に基づくと推定される(一段目の推定)→文書全体が本人の意思により真正に成立したと推定される(二段目の推定)、という過程を経て文書全体の成立の真正が推定されることとなり、実務上も定着しています(これを二段の推定といいます)。
 したがって、本件でも契約書に本人の押印がある以上、ひとまず本人の意思により契約書が真正に成立したものと推定され、特段の事情のない限り、保証の合意があったものと認められることになります。
 しかし、押印が本人の意思に基づくことや、文書全体が本人の意思により真正に成立したことは、いずれも推定されるに過ぎませんので、保証人とされた人は、反証をすることにより、これらの推定(いずれも事実上の推定といいます)を働かなくすることができます。
 たとえば、一段目の推定に対する反証としては、当時印鑑を紛失していたこと、当時第三者に印鑑を預けていたこと、印鑑を保管していた場所を第三者も知っていて接近可能であったこと、などの事実が挙げられ、これらの事実が証明されれば、本人の意思に基づく押印であることの推定を覆す可能性が出てきます。
 また、二段目の推定に対する反証としては、本人が確かに押印したがそのときは白紙であったこと、押印した後に改ざんされたこと、などの事実が挙げられ(金融機関相手の場合にこういう場面は想定しにくいですが)、これらの事実が証明されれば、本人の意思に基づく文書全体の成立であることの推定を覆す可能性が出てきます。
 これらの事実は証拠により証明しますので、いかに証拠(客観的な証拠がなければ、証言)を集められるかが重要となります。