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Q&A 金融機関取引の基本

デリバティブ編

Q4

 銀行から、余資運用として仕組債や仕組預金を勧誘されています。仕組債や仕組預金とはどういう仕組みのものなのでしょうか。

A4

 仕組債や仕組預金は、総称して仕組商品などと呼ばれます。
 仕組商品とは、デリバティブを組み込んだ金融商品のことを言います。
 デリバティブを組み込んだ債券が仕組債、デリバティブを組み込んだ預金が仕組預金ということになります。
 デリバティブを組み込むとは、債券や預金などの基本となる金融商品のキャッシュフローに、デリバティブのキャッシュフローを合成することを意味します。
 仕組商品には、他社株転換債(EB)、株価指数リンク債(日経平均ノックイン債など)、デュアルカレンシー債などの仕組債、二重通貨預金などの仕組預金、仕組債に投資する投資信託(日経平均ノックイン投信など)など、様々な種類のものがあります。
 仕組商品の多くは店頭デリバティブと呼ばれ、1998年のいわゆる日本版金融ビッグバンにより日本でも販売が解禁されました。
 仕組商品の多くに共通するのは、顧客側のプットオプションの売りのポジションを組み込んで、その対価たるオプション料を債券のクーポンに上乗せすることにより、高利回りとしているところです。
 ここではまず、オプションについて説明します。
 オプションとは、ある資産をあらかじめ約定した一定の期日または期間内にあらかじめ決めた価格(権利行使価格)で買う権利(コールオプション)又は売る権利(プットオプション)をいいます。
 したがって、オプション取引のポジションは、①コールオプションの買い、②コールオプションの売り、③プットオプションの買い、④プットオプションの売りの4種類となります。
 このうちプットオプションの売りとは、売る権利を売ること、つまりプットオプションの売り手は、オプションの買い手がある資産を売る権利を行使した場合には、あらかじめ決めた権利行使価格で買う義務を負うこと、を意味します。
 したがって、プットオプションの売り手は、利益はオプション料のみに限定される一方で、損失は理論上無限大となります(資産の価格には0円の下限があるので、実際は損失はその範囲にとどまります)。
 ここで、代表的な仕組商品の1つである日経平均ノックイン債を単純化したものを素材に説明します。
 日経平均ノックイン債とは、日経平均株価指数を参照指標とするプットオプションの売りを組み込んだ債券です。
 例えば、期間1年、金利2%、ノックイン価格:日経平均株価指数の70%などと設定します。
 日経平均株価指数が一度でもノックイン価格を下回った場合には、プットオプションが発生し、プットオプションの売り手である顧客は、権利行使価格(例えば購入時の日経平均株価指数)で権利行使日の日経平均株価指数を買い取る義務が発生することを意味します。
 言い換えると、顧客は、投資元本×(権利行使価格-権利行使日の終値)÷権利行使価格の損失を被ることになります。
 例えば、投資元本3000万円、購入時の日経平均株価指数12000円、ノックイン価格8400円、権利行使日の日経平均株価指数8000円とすると、3000万円×(12000円-8000円)÷12000円=1000万円の損失となります。
 このように、日経平均ノックイン債は、日経平均株価指数がいくら上昇してもリターンは利金だけに限定されるのに、日経平均株価指数が一度でもノックイン価格まで下落したときは、下落分のすべてを損失として被るというものであり、リスクとリターンが見合わないハイリスクな商品といえます。
 このような日経平均ノックイン債や、これを投資対象とする投資信託である日経平均ノックイン投信が大量に販売され、個人や法人などの顧客が莫大な損失を被ったことが社会問題にもなり、販売した証券会社や銀行に対する訴訟も多数提起されています。
 そして、いくつもの裁判で日経平均ノックイン債や日経平均ノックイン投信のハイリスク性が認定され、販売側の損害賠償責任が認められました。
 例えば、裁判例の一つは、日経平均ノックイン債について「得られる可能性のある利益は利金(手数料等は控除される。)の限度であるのに、利金程度にとどまらない損失を受ける可能性があり(一定の限度はある。)、しかも中途で売却することができないといった制約を負っている。購入すべきかどうかを決定するに際しては、その仕組みをよく知り、経済状況、株式市況の動向に関心を払い、1年先の株式市況の動向を予測した上で、中途で売却できないというリスクをとりつつなお購入すべきか否かを判断しなければならず、主体的積極的な投資判断を要する投資商品であり、リスク性の高い投資商品である。」と認定しています(大阪高裁平成20年6月3日判決)。
 仕組商品は、一見すると、元本毀損リスクが少ない一方で高めのクーポンが得られるという、ローリスクミドルリターンの商品であるように見え、長引く超低金利下で少しでも有利な運用をしたいという顧客心理をうまく突いたものといえます(下の表は定期預金預入金利の長期推移(1000万円以上/1年)ですのでご参照ください)。
 (縦軸:%)  定期預金金利長期推移
 (日本銀行HPのデータをもとに集計・加工)
 また、下の表は、家計資産のうち定期預金と金融派生商品(デリバティブ)の残高の推移を示したものです(減っているグラフが定期預金で単位は左側の軸、増えているグラフが金融派生商品で単位は右側の軸)。
 (縦軸:億円)
 家計資産(定期預金・デリバティブ)残高長期推移
 (日本銀行HPのデータをもとに集計・加工)
 左側の軸と右側の軸でケタが全く異なることに注意していただく必要がありますが(定期預金が減った分がそのまま金融派生商品にシフトしたと見てはいけません)、長引く超低金利下で家計が資産運用を多様化し、その中でごくわずかとはいえハイリスクなデリバティブへの投資にも流れてきていることを示していると思います。
 特に日経平均ノックイン債や日経平均ノックイン投信は、日経平均株価指数という多くの人にとってなじみの深い指標を対象としているので、デリバティブの普及(蔓延)に相当寄与したものと思われます。
 以上の通り、仕組商品の表面上のリターンが高いのはプットオプションの売りのポジションなどの高いリスクを負っていることの裏返しですから、安易にローリスクミドルリターンの商品であるなどと判断してはなりません。
 顧客側としては、銀行が勧誘してくる商品だから安全なのだろうと安易に考えず、商品内容を慎重に見極める必要があります。