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Q&A 金融機関取引の基本

デリバティブ編

Q2

 数年前に銀行から勧誘されたはじめた為替デリバティブが経営を圧迫しています。為替デリバティブとはどういう仕組みのものだったのでしょうか。

A2

 デリバティブとは、伝統的な金融取引から派生した商品を総称したもので、金融派生商品とも呼ばれます。
 デリバティブと一括りにしてしまうと、比較的古くから行なわれている米や原油などの先物取引もデリバティブですし、貿易商社などが輸出入の際に使う為替先物予約もデリバティブですし、リーマンブラザーズが破綻した原因となったクレジットデフォルトスワップ(CDS)もデリバティブですし、また天候デリバティブなどというものもあり、実体をつかみにくくなります。
 主として中堅中小企業において銀行との関係で問題となっているデリバティブとは、通貨オプション契約やクーポンスワップ契約などの為替デリバティブと金利スワップですので、ここでは、これらに絞った形で説明します(金利スワップについてはQ3で詳しく説明します)。
 これらのデリバティブは店頭デリバティブと呼ばれ、1998年のいわゆる日本版金融ビッグバンにより日本でも販売が解禁されました。
 まず通貨オプション契約についてですが、その前にまずオプションについて説明します。
 オプションとは、ある資産をあらかじめ約定した一定の期日または期間内にあらかじめ決めた価格(権利行使価格)で買う権利(コールオプション)又は売る権利(プットオプション)をいいます。
 したがって、オプション取引のポジションは、①コールオプションの買い、②コールオプションの売り、③プットオプションの買い、④プットオプションの売りの4種類となります。
 外貨建(例えば米ドル)の輸入をしている企業としては、仕入にかかる外貨支払時での円安ドル高がリスクとなります。
 そこで、この為替変動リスクを回避するためには、外貨支払時を決済時とする為替先物予約をすればそれで済むことになり、実際多くの企業がそういう対応をしてきたと思います。
 では、近時問題となっている通貨オプション契約とは一体何なのでしょうか。
 輸入企業にとって通貨オプション導入のニーズがあるとすれば、円安ドル高リスクを回避するため、一定のレート(例えば1ドル100円)でドルを購入する権利を取得することであり(上記でいえば①ドルコールオプションの買いのポジション)、これのみで足りることになります。
 オプションはあくまで”権利”であり、権利である以上放棄をすることは自由ですから、決済日に不要であれば(例えば決済日に1ドル90円になったような場合)、権利を行使せず、市場でスポットレート(1ドル90円)で必要なドルを購入すればよいことになります。
 そして、この権利を取得するために、オプションの買い手は対価たるオプション料を支払うことになります。
 これが通貨オプション取引の意義といえ、この限りで銀行が勧誘して企業が導入してたのであれば、特に問題はなかったはずです。
 しかし、近時問題となっているのは、この①ドルコールオプションの買いに、③ドルプットオプションの売り、を組み合わせた形で大量に販売されたためです。
 この「プットオプションの売り」というのは、様々なデリバティブ取引に共通するハイリスク性を基礎づけるものですので、理解が必要です。
 プットオプションの売りとは、売る権利を売ること、つまりプットオプションの売り手は、オプションの買い手がある資産を売る権利を行使した場合には、あらかじめ決めた権利行使価格で買う義務を負うこと、を意味します。
 したがって、プットオプションの売り手は、利益はオプション料のみに限定される一方で、損失は理論上無限大となります(資産の価格には0円の下限があるので、実際は損失はその範囲にとどまります)。
 つまり、プットオプションの売りとは、リスクヘッジではなく、リスクテイクのポジションといえます。
 企業におけるドルプットオプションの売りのポジションとは、例えば1ドル100円でドルを売る権利を銀行に売るというもので、逆にいえば、1ドル100円でドルを銀行から買う義務を負うことを意味します。
 企業は、上記の例でいえば、①ドルコールオプションの買いと③ドルプットオプションの売りを組み合わせたポジションをとることにより、1ドル100円を境に、円安ドル高になればなるほど為替差益を得られるが、円高ドル安になればなるほど為替差損を被り、その損失は理論上無限大(実際は1ドル99円の上限)となります。
 輸入企業において、このようなドルプットオプションの売りのニーズが全くないことは言うまでもありません(円高ドル安の場合は、その都度市場でスポットレートで必要なドルを購入すればよいだけであり、ヘッジすべき為替リスクが存在しません)。
 さらに、近時問題となっている為替デリバティブは5年~10年もの長期にわたる契約が多いので、こうした為替差損のリスクを長期継続的に負担するというところが問題なのです。
 長期契約ということは、中途解約をすると解約清算金が発生するということを意味します。
 以上のことからわかるとおり、オプション自体はニーズに合わせて導入すればそれ自体に問題があるわけではないですが、近時問題となっている為替デリバティブは、①ニーズに合わないドルプットオプションの売りのポジションを取らされていること、②そのポジションが5年~10年という長期継続的な契約により拘束され続ける、という点が問題になっているといえます。
 通貨オプション契約という名称ではありますが、①ドルコールオプションの買いと③ドルプットオプションの売りを組み合わせることにより、実態は単に一定のレートで円とドルを長期継続的に交換し続けるだけの内容となり、オプションそのものの意義からかけ離れたものとなっているので、これをオプション契約と言ってよいのかすら疑問です。
 ちなみに、銀行からみれば、企業における①ドルコールオプションの買いとは、銀行における③ドルプットオプションの売りであり、銀行は円安ドル高になればなるほど損失無限大のリスクを負うことになりそうです。
 しかし、通貨オプション契約上、円安ドル高が進んだ場合には、一定のレート(例えば1ドル120円)に達したところで契約が終了する特約が付されており、そこで銀行の損失は食い止められるという仕組みになっていることが多く(これをノックアウト条項といいます。)、その点銀行はしっかりとリスク管理ができていることになります。
 さらに、企業の損失を拡大させる仕組みとして、レバレッジとギャップの特約があります。
 レバレッジとは、一定のレート(レバレッジ判定レート)よりも円高ドル安になった場合には、企業が購入するドルの量が2倍や3倍に増えるというもので、円高ドル安時の為替差損を2倍、3倍に拡大させるものです。
 円安ドル高時のレバレッジというものは通常なく、この点でも銀行はしっかりとリスク管理をしています。
 ギャップとは、一定のレート(ギャップ判定レート)よりも円高ドル安になった場合には、企業は当該レートより割高(円安ドル高)なレート(ギャップレート)で購入することになるものです。
 円安ドル高時のギャップというものも通常ないです。
 これらのレバレッジやギャップが付されていない契約をプレーンバニラなどと呼びますが、多くはこれらの特約が付されており、レバレッジとギャップの両方が付されていることも少なくないです。
 また、為替デリバティブ契約の中でクーポンスワップ契約や金利及び通貨交換契約などというものもあります。
 これらはその名の通り、想定元本に対する金利及び通貨の交換という形で長期継続的に円と外貨を交換するものですので、上記の(本来の意味ではない)通貨オプション契約と実質は同じものです。
 長引く超円高の下で、長期契約による拘束、ドルプットオプションの売りポジションのリスクの顕在化、レバレッジやギャップなどのハイリスクの特約の発動の要因が重なり、特に中堅中小企業において為替デリバティブによる損失発生や資金流出が拡大し、破産などの倒産に至る事例も出るなど非常に大きな問題となっているのです。
 下の表(東京市場ドル・円(スポット 17時時点/月末)が示す通り、外国為替は短期間で大きく変動し、株式や債券(金利)などと比べてもリスクが高い(変動が大きい)といえます。
 (縦軸:円/ドル)
 円/ドル相場推移
 (日本銀行HPのデータをもとに集計・加工)
 こうしたものを5~10年間もの長期間、固定レートで継続的に取引するというのは信じられないものがありますが、為替デリバティブを行った企業のほとんどが、上記のような仕組みやリスクについて十分に理解しないまま、銀行に勧められるままにはじめてしまい、後になって予想もしなかった損失発生及び資金流出に直面しているという事態は、企業側のリスク管理の必要性を示すとともに、金融機関との取引のあり方についても色々と考えさせるものがあります。