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Q&A 金融機関取引の基本

デリバティブ編

Q1

 数年前に銀行から勧誘されてデリバティブをはじめたのですが、仕組みやリスクについて全く理解していませんでした。このような場合でも契約は有効なのでしょうか。

A1

 現在問題となっている銀行との間のデリバティブ契約は、為替系の場合は長期継続的に一定の外貨を一定の為替レートで購入し続ける内容(通貨オプション、クーポンスワップ等)、金利系の場合は長期継続的に変動金利を受け取り、固定金利を支払うという内容(金利スワップ等)になっていると思います。
 なお、金利スワップの基準金利として用いられることが多いTIBORに関しては、近時いわゆるLIBOR問題に関連して報道にも出てきております。
 LIBOR、TIBORなどについては、ニュース解説・コラム LIBOR問題2もご参照ください。
 これらのデリバティブ契約は基本的には継続的な売買契約(民法555条)(もしくは交換契約(同法586条))といえるかと思いますが、契約は、申込と承諾のみにより成立しますので(同法521条~528条)、デリバティブ契約の成立は原則として問題ないことになります。
 なお、デリバティブにおいては、契約書が交わされず、取引確認書やConfirmation Slipなどという書面があるにすぎない場合もありますが、契約の成立のために契約書は原則として不要ですので、契約成立に影響はありません。
 そのうえで、デリバティブ契約の効力を否定するためには、錯誤無効(同法95条)、詐欺取消し(同法96条)、公序良俗違反(同法90条)などを主張することになります。
 ここでは、比較的主張されることが多い錯誤無効について説明します。
 錯誤無効とは、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」(同法95条)とされているとおり、法律行為の要素に錯誤があることが要件とされています。
 要素の錯誤とは、判例・通説によれば、因果関係と重要性の2つの要素をそなえた錯誤であるとされ、因果関係とはその錯誤がなければ表意者は意思表示をしなかったであろうことであり、重要性とは錯誤がなければ意思表示をしないであろうことが通常人の基準からいってももっともであるほどの重要な部分についての錯誤であることをいうとされています(内田貴「民法Ⅰ(第4版)」68頁)。
 これをデリバティブ契約に当てはめてみれば、デリバティブの仕組みやリスクについて錯誤がなければ企業はデリバティブを申し込まなかったであろうし(因果関係)、その仕組みやリスクが、その錯誤がなければ申し込まないであろうことがもっともであるほどの重要な部分であるといえるか(重要性)ということかと思います。
 実際、デリバティブを組み込んだいわゆるFXターン債と呼ばれる仕組債の売買について、錯誤により契約無効とした裁判例があります(大阪高裁平成22年10月12日判決)。
 前提となる仕組債の商品内容についてはここでは省略しますが、判決は結論として、「一審原告は、本件仕組債を購入する際、本件仕組債の権利内容について錯誤に陥り、そのリスクについて理解しないままであったと認めるのが相当である。そして、その錯誤は、本件仕組債を購入するかどうかを判断する上で、最も、重要な事項についての錯誤であり、しかも、錯誤に陥っていたことは、表示されていたと認められるから、本件仕組債を買い受ける旨の意思表示は、民法95条により無効である。」としました。
 なお、金利スワップについて、銀行の説明義務違反が重大であるため、契約は信義則に違反して無効であるとした裁判例がありましたが(福岡高裁平成23年4月27日判決)、最高裁で判断が覆されて、銀行に説明義務違反はなく契約は有効とされました(最高裁平成25年3月7日判決)。
 この金利スワップは、期間6年で、企業側は2.445%の固定金利の支払い、3か月TIBOR+0%の受け取り、という内容でした。
 なお、ニュース解説・コラム LIBOR問題2の末尾の金利推移表からわかるとおり、長期的な超低金利下において結局金利上昇は起こらず、本件と同じような変動金利受け、固定金利払いのポジションをとった企業は軒並み金利差の支払い損が生じたことになると思います。
 さらに裁判例の企業は、銀行から短期プライムレートを基準金利として借り入れを行っていたので、金利スワップによるリスクヘッジ効果も疑問といえるような状況であったといえます。
 このような事実関係の下、判決は「被控訴人銀行において、本件金利スワップ契約の締結に当たって、契約に付随する控訴人会社に対する説明が必要にして十分行われたときは、控訴人会社においては、目的とした変動金利リスクヘッジの可能性の不合理な低さ等から、本件金利スワップ契約は締結しなかったことは明らかで、その説明義務違反は重大であるため、本件金利スワップ契約は契約締結に際しての信義則に違反するものとして無効であり、また、その説明義務違反は、被控訴人銀行の不法行為を構成すると解さざるを得ない。」としました。
 これらの裁判例はありますが、全体としてはデリバティブ契約の無効を認めた裁判例は少なく、企業にとっては依然ハードルは高いといえます。
 錯誤などによりデリバティブ契約を無効とすれば、基本的に過去に支払った分を全て取り戻せることになるので、その効果は大きいです。
 そこまでいかなくても、金融機関側による仕組債やデリバティブの勧誘行為について適合性原則違反や説明義務違反などの不法行為(民法709条)を主張して、過去に支払った分を損害賠償請求するという方法もあり、一定の過失相殺をされながらも認められている裁判例は少なくないです(仕組債多数。為替デリバティブでは大阪地裁平成24年2月24日判決など)。